みなさんこんにちんは。
現在、三次救急総合病院で診療放射線技師として勤務している、まろんと申します。
早速ですが、まずはこちらのデータをご覧ください。
医療従事者の年収ランキングは・・・ひゃ、106位!?!?
2021年現在、業種別の平均年収ランキングで医療従事者の順位は106位となっています(医療・福祉・介護サービス:マイナビ転職調べ)。
一般的なイメージとして「医療従事者の給料は高い」と思われているのではないのでしょうか?
先日私がツイッターで行った調査でも、多くの方が医療従事者の年収は高いと認識されていることがわかりました。
しかし、実際は106/110位。これが現実です。
質の高い医療サービスを患者に提供するためには、医療現場で働く医療従事者自身の心と身体の健康が不可欠です。
そのためには、自身と家族の環境を充実させるための経済的な余裕があって初めて成り立ちます。
そこでこの記事では、なぜ近年の医療従事者の給与は著しく低い結果となってしまっているのかを、経済学的な観点から解説していきます。
「こんなに私たちは頑張っているのに!」「責任重大、超過酷な労働環境で働いているのに!」など、そういった感情論ではありません。
近年の医療の状況をデータやグラフから読み解いて、なるべくわかりやすく解説していきます。
- 統計省総務局:https://www.stat.go.jp/index.html
- 厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/index.html
- 経営ナレッジ『山田コンサルティンググループ株式会社』:https://www.ycg-advisory.jp/learning/healthcare/
そもそも医療従事者の給与はどのように支払われているのか
まず、医療従事者の給与の概要について簡単に解説します。
医療費について(医療費=自己負担金+診療報酬)
私たちが病気にかかった時、怪我をしたときなどにかかる病院の経営はすべて「医療費」をもとに行われています。
医療費は主に、患者自身がお会計で支払う金額(自己負担金)と、医療保険者から支払われる「診療報酬」に分けられます。
ちなみにこれを医療保険制度といいます。
そしてこの医療費をそれぞれの病院が、人件費や医薬品費、医療機器・機材費、設備関係費・その他ランニングコストなどに充てて経営を行っている仕組みになっています。
そしてこの医療費、実はそれぞれの病院が自由に決めることはできません!
医療費は全国一律の公定価格となっており、厚生労働大臣により定められた金額(診療報酬点数)が定められています。
病院は「非営利団体」であるため、利益を目的とした事業を行う事はできません。このように公定価格のなかで事業を行うことで、価格競争による営利化を防ぎ、どの病院でも一定の水準を満たした医療を提供できる仕組みになっています。
「大きな病院=給与が高い」は間違い!?
一般的な企業では、企業規模が大きいほど給与が高い傾向があります。
しかし、病院に関しては決してそうではありません。
もちろん大きな病院ほど、抱える患者さんの人数は多いため、得られる医療費も当然大きな金額です。
一方で、大きな病院ほど日々の業務にかかるコストも膨大です。
大量のスタッフにかかる人件費や数多くの医薬品費、最新・高性能な超高額の医療機器・機材。巨大な施設の維持費・修繕費、電気・水道などのライフラインコストなど、さまざまな部分で大きなコストがかかります。
そのうちの限られた金額が人件費に充てられるため、大きな病院ほど一人あたりの給与が高くなるとは言えないのです。
医療従事者の給与はなぜ低い?
それではここから、医療従事者の給与が低い原因を具体的に解説していきます。
少子高齢化社会の加速による社会保険料の増加
超高齢化社会による医療費の増加
先ほど簡単に説明した医療費ですが、ここ数十年はずっと増加傾向です。
国民医療費は昭和53年度に10兆円を超えて、平成30年度の国民医療費は43兆兆3949億円となっています。
さらに2025年にはさらに増加し54兆円になる見通しです。
さらにここで注目すべきは、国内総生産(GDP)と国民所得(NI)に対する比率と国民医療費の関係です。
- 国内総生産(GDP)とは
-
国内で、1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の合計。その国の経済力の目安によく用いられます。基本的に経済が好調な時はGDPの成長率が増加し、逆に不調な時は低くなります。
- 国民所得(NI)とは
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居住者が国内外から1年間に得た所得の合計のこと。
グラフを見てわかる通り、国内総生産及び国民所得に対する比率は、平成22年以降横ばいになっていることがわかります。
つまり、日本の経済状況はここ10年ほど成長しておらず、国民の所得も上がっていないということです。
にも関わらず、医療費は年々上昇しており、超高齢化社会が加速することで今後も増加を続けると見込まれています。
少子高齢化社会によって襲い掛かる現役世代への負担
超高齢化社会によって医療費の増加が避けられない一方で、医療費を支える私たち現役世代は減少傾向です。
また、少子高齢化社会も年々大きな問題となっており、未来の日本を担う子供たちの割合も減少傾向です。
かつての人口構造は65歳以上の高齢者ひとりに対して現役世代9人が支える「胴上げ型」でした。
一方で現在は、現役世代2~3人で老人一人を支える「騎馬戦型」となっています。
さらにこの先、超高齢化社会が加速する事で、2050年には高齢者ひとりに対して現役世代1.2人が支える「肩車型」になる見通しです。
その結果、増え続ける医療費をまかなう為に、私たち現役世代の社会保険料は増額せざるを得ないのです。
最近では新型コロナウィルスの悪影響も重なり、雇用保険料の値上げが発表されました。
参考記事:コロナ禍で支給急増、雇用保険料引き上げか…秋にも財源枯渇の見込み(読売新聞)
さらに先述した通り、国内総生産(GDP)および国民所得(NI)は近年横ばいとなっています。
その結果、私たち現役世代の給与はほとんど増えない上に、社会保険料といった非消費支出が増加しているため、給与(手取り)が全く増えないという現状に陥っているのです。
医療はサービス業!病院は儲かっていない!
医療費が増えて病院が儲かるなら、給与も上がるんじゃないの??
そう思いますよね。しかし、現状は違います。その理由を説明しますね。
どんどん潰れていく病院。競争は年々激化!
病院を中心とする医療業界は非営利組織であり、すなわち「サービス業」です。
近年、病院間での競争が激化しており、なかでも療養病床を有する病院(すなわち入院可能な大きな病院)の数は減少傾向にあります。
つまり最近では、病院はどんどん潰れているのです。
さらに先述した通り、病院の収益は医療費から発生しており、価格は厚生労働省が定めて公定価格です。
そこで各病院では、病院間での競争(患者の取り合い)に勝つためにさまざまな面で「サービスの向上」に努めています。
- 優秀な医者、医療スタッフの雇用
- 最新の高度医療機器の導入
- 綺麗で清潔に保たれた施設
- 患者さんへの質の高い接遇・おもてなし
また、医療のレベルは近年、凄まじいスピードで成長しています。
それに伴い、高額な医療機器の導入やそれを動かすための優秀な人材の雇用、維持費、広告費などあらゆる面で費用がかかってきます。
それにより、超高齢化社会により医療費が増えたとしても、同等またはそれ以上に病院を経営する為の諸経費がかかります。
結果として、私たち医療従事者にかかる人件費(給与)が上がりにくいのです。
株式を保有・投資できない
病院を中心とする医療施設は、一般的な企業と異なり株式を保有、つまり上場することが出来ません。これが医療法人と一般法人の大きな違いでもあります。
この点に関しては、近年特に意見が分かれており、医療法人であっても株式の保有を推奨する声も上がっています。
ではなぜ、株式を保有出来ないことが病院にとって不利益であり、私たちの給与が上がらない原因に繋がるのでしょうか?
これについて少し詳しく見ていきましょう!
一般企業(一般法人)と病院(医療法人)の違い
医療法人や社会福祉法人はまとめて「非営利団体」と呼ばれます。人命救助や、介護、地域貢献などの事業は、健康や安全を守ることが目的であるため、営利が目的になっていては十分なサービスが提供できないという前提があるのです。
株式会社は業績に応じて株主への配当を任意に行う事が出来ますが、医療法人は医療法第54条に剰余金の配当をしてはならないと規定しています。
配当禁止の趣旨は、医療法人が生み出した利益は新たな医療機器を購入したり医療関係者の待遇改善等により、医療に還元する為に活用する事が求められている為です。
株式を保有出来ない=市場からお金を調達できない
株式を保有(上場)する最大のメリットは、市場(つまり私たち一般人)から資金を調達できる点にあります。
そこで得た資金を新たなビジネスや設備、機器の投資に使う事で、より事業規模を拡大することが出来ます。
しかし一方で、病院をはじめとする医療法人及び社会福祉法人は株式を保有することが出来ません。
その為、病院が経営を続けるうえで必要な資金は、全て自身の病院の収益から調達する必要があります。
そのため稼げなくなってしまった病院はサービスの質が低下し、職員の給与も十分に支払えず、最終的に破綻するしかないのです。
病院も株式を保有する権利を検討すべきでは?
筆者の個人的な意見としては、病院も株式を保有する権利があってもいいのではと思います。
株式による資金調達により、診療報酬による制限がなくなり、医療経営に自由度が増えるのではないかと考えているからです。
もちろん、病院間での競争が激化し、病院間格差が生じてしまうことはやはり避けられないでしょう。
しかし一般企業であっても、株式を保有つまり上場できる企業は厳しい審査を通過した洗練された企業のみです。
先述した通り、特にいま問題となっているのが、療養病床を有する病院すなわち入院可能な中~大規模病院が次々と潰れていることです。
病院も同様に、ある程度の規模を有し、厳しい審査を通過した施設だけが株式を保有出来るようにすれば、地域医療の中核を担う総合病院を中心に、さらに医療の質が向上し、従業員の給与も増額出来る可能性は十分にある。
そのように筆者は考えています。
医療従事者の給与が低い原因は、超高齢化社会による医療費の増額と社会保険料による負担が大きいため
以上の点を踏まえて、医療従事者の給与が低い原因を以下にまとめました。
- 超高齢化社会による医療費の増額
- 超高齢化社会に伴って、現役世代の社会保険料の負担が増える
- 病院間の競争は年々激化。高度な医療、サービスの提供に莫大な費用がかかる。
- 病院は非営利団体であり、市場から資金調達が出来ない
さらに言うまでもなく、超高齢化社会により患者の数は増え続け、さまざまな高度医療機器が導入され、医療従事者の負担は増え続けている。
質の高い医療サービスを患者に提供するためには、医療現場で働く医療従事者自身の心と身体の健康が不可欠です。
そのためには、自身と家族の環境を充実させるための経済的な余裕があって初めて成り立ちます。
病院の経営を支える医療従事者たちが、自身の身体と心の健康を十分に保った上で、患者により良い医療を提供できる環境を願うばかりです。